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最高裁判所第三小法廷 昭和26年(さ)2号 判決

本籍

熊本県飽託郡広畑村大字保田窪一三六番地

住所

福岡県三池郡高田村大字濃施三四八番地

貨物自動車助手

坂本政延

昭和五年二月二五日生

右の者外一名に対する道路交通取締法違反、業務上過失傷害等被告事件につき昭和二六年二月一四日鳥栖簡易裁判所がした略式命令中被告人に関する部分に対し、検事総長佐藤藤佐から非常上告の申立があつたので、当裁判所は左のとおり判決する。

主文

原略式命令中被告人に関する部分を破棄する。

被告人が自動車の運転免許を受けないで貨物自動車を運転したとの事実に関する本件公訴を棄却する。

被告人を罰金四千円に処する。

右罰金を完納することができないときは百円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。

理由

検事総長佐藤藤佐の非常上告趣意は、末尾添付の非常上告申立書記載のとおりである。

右非常上告趣意について、関係記録を調査するに、被告人は昭和二五年九月一一日福岡県三養基郡基里村道路上において、自動車の運転免許を受けていないにかかわらず、渡瀬運送店所有の貨物自動車福第六三、八〇二号を運転したとの犯罪事実につき、当初昭和二六年一月三一日大牟田簡易裁判所に対し公訴提起と同時に略式命令を請求せられ、同年二月八日同裁判所は右事実につき道路交通取締法違反として被告人を罰金千円に処する旨の略式命令をなし、この裁判は同年三月一七日確定した。ところが右略式命令がなされた後未だその確定しない前である同年二月一三日、鳥栖簡易裁判所に対し右同一事実につき他の業務上過失傷害の事実と併せて公訴提起、略式命令の請求があり、同裁判所は同月一四日道路交通取締法違反及び業務上過失傷害罪として被告人を罰金五千円に処する旨の略式命令(被告人川辺卯吉に対する被告事件と併合)をなし、この裁判は同月二四日確定した事実を認めることができる。しからば右道路交通取締法違反の事実については、後に起訴を受けた鳥栖簡易裁判所は刑訴第三三九条第一項第四号に則り決定を以て公訴を棄却すべきであつたのにかかわらず、その措置をとらず略式命令をしたため、同一事実について二個の略式命令がなされ相前後して確定した結果となつたものであつて、原略式命令は明らかに違法であり、本件非常上告は理由がある。

而して原略式命令は被告人のために不利益と認められるから、刑訴第四五八条第一号但書により原略式命令中被告人に関する部分を破棄し、更に被告事件につき判決をすることとし、刑訴第三三九条第一項第四号により二重起訴にかかる事実に関する本件公訴を棄却し、原略式命令において確定された業務上過失傷害の事実につき刑法第二一一条前段を適用し、所定刑中罰金刑を選択し、罰金等臨時措置法第二条第三条所定の罰金額の範囲内において被告人を罰金四千円に処し、刑法第一八条により右罰金不完納の場合は百円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置すべきものとし、主文のとおり判決する。

この裁判は裁判官全員一致の意見によるものである。

検察官 田中巳代治関与

(裁判長裁判官 長谷川太一郎 裁判官 井上登 裁判官 島保)

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